【医院向け】クリニック経営を安定させる労務管理のコツ

【医院向け】クリニック経営を安定させる労務管理のコツ
五十嵐沙織弁護士
五十嵐沙織弁護士
(第一東京弁護士会)
この記事の監修者:
五十嵐 沙織(広尾有栖川法律事務所)
中央大学大学院法務研究科修了。freee株式会社にて企業内弁護士として東証マザーズ(現グロース)の上場を担当。現在広尾有栖川法律事務所を開業し、スタートアップ企業の伴走支援や、医療、人事労務に注力。弁護士のプロフィールはこちら

クリニックの労務管理は、経営を安定させ、スタッフが安心して働ける環境を整えるためにとても大切な取り組みです。

医療の現場では、残業代の未払い、就業規則の未整備、人間関係のトラブルなど、さまざまな課題が発生しやすいと言われています。

クリニックの労働問題を防ぐためには、クリニックの現状に合った労務管理を行い、適切な対応を進めることが大切です。

スタッフが気持ちよく働ける環境づくりが、クリニック全体の成長につながります。

クリニックでよくある労働問題とその背景

クリニックでは、残業代の支払い不足や人間関係の悩み、就業規則が整っていないことによるトラブルなど、医療業界ならではの労務問題が起こりやすいと言われています。

労働問題における課題が解消されることで、働きやすい環境づくりにつながります。

医療業界特有の労務トラブルとは?

クリニックでは、医療業界特有の働き方が原因で労務トラブルが起こりやすいと言われています。

医師、看護師、医療事務など、さまざまな職種のスタッフが働いているため、それぞれの勤務条件や役割が異なり、労務管理が複雑になりがちです。

また、患者対応が優先されるため、診療時間が延びやすく、残業が発生しやすい環境です。

曖昧な状況が続くと、残業代が適切に支払われない、勤務時間の記録が曖昧になるといった問題が起きることがあります。

さらに、少人数で運営されるクリニックでは、院長とスタッフとの距離が近い分、人間関係の問題が表面化しやすく、ハラスメントに発展してしまうリスクもあります。

クリニックの労務問題を防ぐには、現場の特性を理解した労務管理の仕組みづくりが大切です。

なぜ労務管理がクリニック経営に欠かせないのか

クリニックを安定して運営していくためには、労務管理が欠かせない重要なポイントになります。

例えば、残業代が適切に支払われない場合や就業規則が整備されていない場合、スタッフとのトラブルが深刻化し、訴訟や離職に発展するリスクがあります。

また、院長とスタッフの関係が悪化すると、クリニック全体の雰囲気が悪くなり、複数のスタッフが退職する事態を招くこともあります。

結果として、患者へのサービスの質が低下し、経営にも影響を与えてしまいます。

一方で、適切な労務管理が行われているクリニックでは、スタッフが安心して働ける環境が整い、仕事へのモチベーションが向上します。

労務管理を適切に行うことで、医療サービスの質も高まり、患者からの信頼が厚くなるため、クリニック全体の成長につながります。

クリニックで起きやすい労働問題の具体例

クリニックでは、残業代の未払い、就業規則の未整備、ハラスメント、パートスタッフへの有給休暇未付与など、労務管理が不十分なことが原因で様々な問題が発生しやすい傾向があります。

残業代の未払い

クリニックでは、患者対応が長引くことが多く、スタッフが定時を過ぎて働くケースが少なくありません。

しかし、残業時間がきちんと記録されず、残業代が支払われないという問題が起こることがあります。

例えば、タイムカードでは定時退勤とされていても、実際には診療後の片付けや事務作業を続けている場合があります。

本来、こうした時間も労働時間として計算されるべきですが、管理が曖昧だと支払われないことがあります。

残業代が未払いの状況が続くと、スタッフが不満を抱え、離職といったトラブルの原因になりかねません。

就業規則が無い

就業規則をきちんと整備していないクリニックも少なくありません。

ルールが明確でないと、スタッフとの間で誤解や不公平感が生まれやすく、トラブルにつながることがあります。

例えば、無断欠勤を繰り返すスタッフに対して注意をしても、就業規則がないために具体的な対応が取れず、問題が長引くこともあります。

また、有給休暇や給与支払いのルールが曖昧なままでは、信頼関係が損なわれるリスクも高まります。

院長との対立によるハラスメント

クリニックは少人数で運営されるため、院長とスタッフの距離が近い職場です。

そのため、ちょっとした誤解やすれ違いが深刻な対立に発展してしまうこともあります。

例えば、特定のスタッフを優遇する態度や、ミスを繰り返すスタッフへの厳しい指摘が、他のスタッフに不公平だと感じられる場合があります。

ハラスメントと捉えられると、職場の雰囲気が悪くなり、退職者が出ることも少なくありません。

パートスタッフの有給休暇未付与

パートで働くスタッフに有給休暇を付与していないことが、トラブルになる場合があります。

法律では、一定の勤務条件を満たすパートスタッフにも有給休暇を与えることが義務付けられていますが、パートスタッフへの有給休暇の付与は不要であると誤解をされていることも少なくありません。

問題を放置してしまうと、スタッフから労働基準監督署に相談されることもあり、クリニックの信頼に影響を及ぼす可能性があります。

もしも労働問題が発生したら?

クリニックで労働問題が起きたときは、慌てず冷静に対応することが大切です。

労働問題の原因をしっかり確認しながら、解決に向けて丁寧に進める姿勢が求められます。

院長が最初に取るべき対応とは

労働問題が発生したとき、まず大切なのは冷静に対応し、迅速に状況を把握することです。

スタッフから相談や指摘を受けた場合は、否定せずに話を最後まで聞き、誠実な態度を示すことが信頼関係を保つポイントです。

例えば、残業代が支払われていないという指摘があれば、勤務記録や給与明細を確認しながら、必要に応じてスタッフの話を丁寧にヒアリングします。

事実を正確に把握することで、問題の解決に向けた最初の一歩を踏み出すことができます。

スタッフとの話し合いで信頼回復を目指す

問題が起きたときには、スタッフとの話し合いがとても重要です。

対話の場では、問題点だけに焦点を当てるのではなく、スタッフが抱えている不安や不満についてもしっかり耳を傾ける姿勢が大切です。

例えば、残業代の未払いが原因で不信感が生じている場合、理由や背景を丁寧に説明したり、今後の改善策を一緒に考えたりすることが求められます。

また、スタッフが安心して意見を言える雰囲気を作ることで、信頼関係を取り戻すだけでなく、職場全体の雰囲気を良くすることにもつながります。

専門家に相談することも大切

クリニックで労働問題が発生したとき、解決が難しいと感じた場合は、専門家に相談することも選択肢の一つです。

弁護士や社会保険労務士などの専門家は、法律に基づいたアドバイスを提供してくれるため、適切な対応策を見つけやすくなります。

また、トラブルを早期に解決することで、同じ問題を繰り返さないような仕組みを整えることもできます。

専門家のサポートを活用することで、院長自身の負担を軽減しながら、クリニック全体の安定した運営につなげていけるでしょう。

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労働問題を防ぐためにできること

労働問題を防ぐためにできること

労働問題を防ぐためには、現場の状況に合った労務管理を進め、スタッフが安心して働ける環境を整えることが大切です。

現場に合った就業規則を作る

クリニックでの就業規則は、働くスタッフ一人ひとりにとって分かりやすく、現場に合った内容であることが大切です。

例えば、勤務時間や休憩時間、残業のルールを明確に記載することで、誤解やトラブルを防ぎやすくなります。

また、専門職が多いクリニックでは、職種ごとに異なる条件を反映させることもポイントです。

診療体制やスタッフの人数が変わった場合には、定期的に規則を見直し、スタッフ全員と共有することで、職場全体の安心感や信頼感を高めることができます。

残業代や勤務時間をしっかり管理する

クリニックでは、診療後の片付けや準備といった業務が発生しやすく、勤務時間が曖昧になることがあります。

勤怠にかかる業務もしっかり記録し、残業代を適切に支払うことが基本です。

タイムカードや勤怠管理システムを導入すると、勤務時間の記録が正確になり、管理がスムーズに進められます。

また、忙しい時間帯に業務が集中しないように、シフトや業務分担を工夫してスタッフの負担を軽減することも大切です。

スタッフとのコミュニケーションを日々大切にする

労働問題を未然に防ぐためには、スタッフとの日々のコミュニケーションが欠かせません。

例えば、定期的に面談を行い、スタッフの意見や要望に耳を傾けることで、早めに課題を発見しやすくなります。

また、日々の挨拶や何気ない会話を大切にし、職場の雰囲気を温かく保つことも信頼関係を深めるポイントです。

労務管理の知識を深める研修を活用する

労務管理に関する知識を深めることは、クリニックを円滑に運営するための重要な取り組みです。

専門家が行う研修やセミナーを活用すると、労働基準法や働き方改革のポイントなど、実践的な知識を身につけられます。

例えば、残業代の計算やハラスメント防止策など、具体的な内容を学ぶことで、現場での対応力が高まります。

また、スタッフ向けのコミュニケーションやモチベーションアップに関する研修を取り入れると、職場全体の雰囲気が良くなり、働きやすさが向上します。

広尾有栖川法律事務所について

広尾有栖川法律事務所では、医療機関やクリニックの経営者様が安心して医療に専念できるよう、日々サポートを行っています。

当事務所の代表弁護士は、医療法人での勤務経験を持ち、医療分野に関する深い理解と知見を備えています。

そのため、医療機関ならではの課題やニーズに対し、実情に即した具体的なアドバイスが可能です。

例えば、患者様からのクレーム対応や労務トラブル、広告チェックといった日常的な法的リスクへの対処から、就業規則の整備や契約書の確認まで、幅広いサポートを提供しています。

特に医療現場でのトラブルは初期対応が重要ですので、些細なことでも気軽にご相談いただければと思います。

クリニックの経営者の方が医療に専念できるよう、私たちは法的な側面から全力でサポートいたします。

日々のクリニック経営に安心感をプラスするパートナーとして、ぜひ一度ご相談ください。

まとめ

クリニックの運営では、残業代の管理や就業規則の整備、人間関係の調整など、労務管理に関する課題が多く見られます。

労働問題に丁寧に向き合い、クリニックの実情に合った対策を進めることで、スタッフが安心して働ける環境が整い、患者へのサービスの質も向上します。

また、労働問題が起きた場合には、丁寧に事実関係を把握し、必要に応じて専門家に相談することが大切です。

しっかりとした労務管理を行うことで、クリニック全体が安定し、より良い職場づくりにつながるでしょう。

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