

(第一東京弁護士会)
五十嵐 沙織(広尾有栖川法律事務所)
近年、医療機関で「モンスターペイシェント」と呼ばれる患者の対応に悩むケースが増えています。
医師や看護師に対して強い口調でクレームを言ったり、診察の順番を守らなかったり、治療費の支払いを拒んだりするなど、対応が難しい状況になることも少なくありません。
特に、小規模なクリニックではスタッフの負担が大きく、精神的なストレスも深刻になりがちです。
モンスターペイシェントが増える背景や主な特徴を理解し、医療機関としてどのように対応していくべきかを考えることが大切です。
本記事では、モンスターペイシェントの特徴や適切な対応方法について詳しく解説します。
目次
モンスターペイシェントとは
モンスターペイシェントとは、医師、看護師、医療事務などの医療従事者に対して、理不尽な要求をしたり、暴言や暴力をふるったりする患者のことを指します。
ときには、患者さん本人だけでなく、その家族が攻撃的な態度を取ることもあります。
例えば、診察の順番を無視する、無理な要求を押し通そうとする、治療費を支払わない、医療従事者に対してハラスメント行為をするなどが挙げられます。
モンスターペイシェントの対応に時間が取られると、他の患者さんの診察が遅れてしまうこともあります。
また、医療従事者が精神的に疲弊し、仕事を続けることが難しくなるケースも少なくありません。
特に、小規模なクリニックではスタッフの人数が限られているため、対応の負担がさらに大きくなりがちです。
モンスターペイシェント増加の背景
モンスターペイシェントが増えている背景には、社会の変化が関係しています。
近年では、患者側の権利意識の高まりに伴い、医療従事者も「医療サービスの提供者」という意識が強まっています。
その結果、医療機関に対して「お客様」扱いを求める風潮が生まれ、理不尽な要求につながることもあるようです。
また、インターネットやSNSの普及も影響しています。ネット上には、正確でない医療情報も多く、患者さんが誤った知識をもとに「この治療をしてほしい」と主張するケースも増えています。
さらに、医療現場の忙しさから十分な説明ができず、患者さんが不満を感じることも一因かもしれません。
モンスターペイシェントの主な特徴
モンスターペイシェントには、いくつかの共通した特徴があります。
理不尽なクレームを繰り返したり、医療従事者に暴言を吐いたり、治療費を支払わなかったりするケースが見られます。
SNSでの誹謗中傷が問題になることもあり、医療現場の負担が大きくなる原因のひとつです。
理不尽なクレームや過剰な要求
モンスターペイシェントの特徴のひとつが、理不尽なクレームや過剰な要求です。
適切な診療を行っていても、「診察時間が短すぎる」「薬が効かないのは医者のせいだ」といったクレームをつけられることがあります。
また、「他の患者より先に診てほしい」「予約なしで診察してほしい」「診察なしで薬をもらいたい」といった、医療機関のルールを無視した要求をすることもあります。
さらに、理不尽なクレームを繰り返したり、対応に不満を感じると、「責任者を出せ」「弁護士に相談する」「行政に訴える」と強く迫ることもあります。
医療従事者への暴言・脅迫・ハラスメント
モンスターペイシェントの中には、医師、看護師、受付スタッフに対して暴言を吐いたり、脅迫をしたりする人もいます。
例えば、「こんな病院、潰してやる」「お前のせいで病気が悪化した」「金を返せ」といった言葉を浴びせたり、長時間にわたって不満を言い続けたりするケースがあります。
中には、「失敗したら許さない」「口コミサイトに悪評を書く」などと脅してくることもあります。
また、セクハラやパワハラの問題も深刻です。女性医療従事者に対して執拗に連絡先を聞く、身体に触れる、不適切な発言を繰り返すなどといった行為が見られるケースもあります。
医療従事者に対する暴言・脅迫・ハラスメントは、医療現場の安全性を損なうだけでなく、スタッフの精神的負担を大きくし、離職の原因にもなります。
治療費の未払い・踏み倒し
モンスターペイシェントの中には、治療を受けたにもかかわらず治療費を支払わない人もいます。
例えば、「治療に納得がいかない」「思っていた結果と違う」といった理由で支払いを拒否したり、「料金が高すぎる」「保険が適用されると思っていた」といった言い訳をして支払いを逃れようとしたりすることがあります。
また、明らかに支払い能力があるにもかかわらず、意図的に治療費を払わないケースもあります。
特に、自費診療や高額な治療費が発生する場合には、未払いのリスクが高まる傾向があります。
治療費の未払い・踏み倒しの問題を防ぐためには、事前に費用についてしっかり説明し、治療を始める前に同意を得ることが大切です。
また、未払いが発生した場合には、督促や法的手続きを視野に入れることも必要になるでしょう。
SNSでの誹謗中傷や風評被害
近年、SNSを使った誹謗中傷や風評被害が増えています。治療に対する不満を理由に、病院やクリニックの悪評をネット上に書き込むモンスターペイシェントも少なくありません。
例えば、「この病院は最悪だ」「医師の態度がひどい」「受付スタッフの対応が悪い」といった内容を投稿し、医療機関の評判を落とそうとするケースがあります。
また、実際には問題のない診療だったとしても、誤解や感情的な理由から悪意のある書き込みをすることもあります。
SNSでの風評被害は、病院の信頼を損なうだけでなく、新しい患者の来院を妨げることにもつながります。
対応策として、公式サイトやSNSを活用し、誤解を生まない情報発信を行うことが大切です。
また、悪意のある書き込みが続く場合には、法的措置を検討することも必要になるでしょう。
モンスターペイシェントへの適切な対応
モンスターペイシェントへの対応では、冷静に落ち着いて対処することが大切です。
クレームの内容をしっかり把握し、スタッフ間で情報を共有することで、スムーズな対応につながります。
無理な要求には丁寧に説明しながらも、必要以上に譲らない姿勢を保つことが重要です。
クレームの内容を正確に把握する
モンスターペイシェントへの対応では、まずクレームの内容をしっかり把握することが大切です。
すべての不満が理不尽なものとは限らず、医療サービスの改善につながる意見が含まれていることもあります。
そのため、最初から否定せず、患者の話を丁寧に聞くことが重要です。
ただし、クレームが長引いたり、繰り返し同じ要求をされると、医療機関の業務に支障が出てしまいます。
「何が問題なのか」を整理し、具体的なポイントを明確にすることが大切です。
また、対応するスタッフ間で情報を共有し、一貫した対応をすることで、患者とのやり取りがスムーズになります。
冷静な態度を保ち、1人で対応しない
モンスターペイシェントに対応するときは、感情的にならず、落ち着いた態度を保つことが大切です。
強い口調でクレームを言われると、ついこちらも感情的になってしまいがちですが、そうすると話がこじれてしまうことがあります。
どんな状況でも、冷静に対応することで、トラブルを最小限に抑えられます。
また、1人で対応せず、できるだけ複数人で対応するのが安心です。
1人では、やり取りの内容を客観的に確認することが難しく、後になって「そんなことは言っていない」と言われる可能性もあります。
複数人で対応すれば、患者の言動を冷静に判断しやすくなり、万が一、暴力やハラスメントの兆候があった場合も、適切に対応しやすくなります。
記録を残し、院内で情報を共有する
モンスターペイシェントの言動や対応履歴をしっかり記録しておくことは、今後の対応をスムーズにするためにとても大切です。
対応した内容を残しておけば、後で「そんなことは言われなかった」「対応がひどかった」といった主張があった場合でも、客観的な証拠として活用できます。
記録する際は、クレームの内容、対応したスタッフ、患者の発言や行動などを具体的に書き残すとよいでしょう。
また、何度もトラブルを起こす患者がいる場合は、院内で情報を共有しておくことで、スムーズに対応できるようになります。
スタッフによって対応がばらばらだと、患者が「この人には通じなかったけど、別の人なら要求を通せるかも」と思い、余計に問題が長引くことがあります。
一貫した対応ができるよう、院内でのルール作りを進めることが大切です。
無理な要求には毅然と対応する
モンスターペイシェントの中には、診療の順番を無視しようとしたり、特別な対応を求めたりする人もいます。
モンスターペイシェントの要求に安易に応じてしまうと、「この病院では強く言えば要求が通る」と思われてしまい、さらに無理な要求が増えてしまう可能性があります。
そのため、最初の段階でしっかり線引きをし、不合理な要求には毅然とした態度で対応することが大切です。
ただし、突き放すのではなく、ルールに基づいた対応であることをしっかり説明することがポイントです。
「申し訳ありませんが、当院では公平な対応を行っております」「他の患者様との兼ね合いもあり、ご希望には添いかねます」など、丁寧に伝えることで、納得してもらえる可能性が高くなります。
また、患者が納得しやすいよう、代替案を提示することも有効な方法です。
もし、無理な要求がエスカレートして暴言や威圧的な態度に発展した場合は、院内の対応ルールに従い、必要に応じて警察や弁護士に相談することも視野に入れましょう。
解決が難しい場合は弁護士に相談を

モンスターペイシェントによるクレームや迷惑行為がエスカレートし、院内での対応が困難な場合は、弁護士への相談を検討することが重要です。
特に、暴言や脅迫、過剰な金銭要求、診療の妨害行為などが見られる場合は、法的措置を視野に入れる必要があります。
法的対応を進める際には、まずトラブルの詳細を記録し、証拠を確保することが大切です。
クレームの内容ややり取りをカルテや報告書に残し、防犯カメラの映像や録音記録がある場合は、しっかりと保管しておきましょう。
保管した記録は、弁護士と連携して対応を進める際に重要な証拠となります。
また、事前に弁護士と顧問契約を結んでおくことで、迅速かつ適切な対応が可能になります。
モンスターペイシェントへの警告文の送付や、法的措置に関するアドバイスを受けることで、医療機関の負担を軽減することができます。
悪質なケースでは、警察や行政機関への相談も視野に入れ、トラブルを未然に防ぐ対策を講じることが大切です。
広尾有栖川法律事務所について
医療機関では、理不尽なクレーム、過剰な要求、暴言やハラスメントへの対応が求められることがあります。
モンスターペイシェントによるトラブルが続くと、医療従事者の負担が増し、業務にも支障をきたしかねません。
広尾有栖川法律事務所は、美容医療や歯科を含む医療法務に強みを持ち、医療機関のさまざまなトラブルへの法的サポートを行っています。
代表弁護士は、医療法人での勤務経験やクリニックの顧問経験があり、実務に即した適切なアドバイスを提供することを大切にしています。
理不尽な要求に振り回されないためには、毅然とした対応が必要です。
必要に応じて弁護士や警察と連携しながら、医療機関の皆様が安心して診療に専念できるよう、広尾有栖川法律事務所がしっかりとサポートします。
お困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。
