業務委託契約書の作成方法とは?初心者でも安心のテンプレート&注意点を紹介

五十嵐沙織弁護士
五十嵐沙織弁護士
(第一東京弁護士会)
この記事の監修者:
五十嵐 沙織(弁護士法人広尾有栖川法律事務所)
中央大学大学院法務研究科修了。freee株式会社にて企業内弁護士として東証マザーズ(現グロース)の上場を担当。現在弁護士法人広尾有栖川法律事務所を開業し、スタートアップ企業の伴走支援や、医療、人事労務に注力。弁護士のプロフィールはこちら

起業して間もないタイミングでは、デザイン制作、SNS運用、事務サポートなど、外部の方に業務をお願いする場面が少しずつ増えていきます。

業務をスムーズに進めるためには、口約束ではなく、業務委託契約書をきちんと用意しておくことが大切です。

ただし、契約書を一から作るのはハードルが高く感じられる方も多いかもしれません。

本記事では、業務委託契約書の基本や作成時の注意点について、起業初期の方にも分かりやすくご紹介します。

業務委託契約書とは?

業務委託契約書とは?

業務委託契約書は、自社の業務を外部の専門家やフリーランスの方にお願いするときに交わす契約書です。

業務の内容や報酬、納期などの条件をしっかり書面にしておくことで、お互いの認識を揃えやすくなり、万が一トラブルが起きたときにも落ち着いて対応できます。

業務委託契約は、法律上、請負契約または委任契約(準委任契約)のいずれかに該当します

起業初期に業務委託を利用するシーンとは?

起業したばかりの時期は、自分ひとりでは手が回らない業務が少しずつ出てくることもあります。

ここでは、業務委託という形で外部にお願いしやすい場面をご紹介します。

社外デザイナーや講師など、スポットでお願いしたい

起業したてのタイミングでは、ロゴ制作やチラシのデザイン、ウェブサイトの作成など、専門的なスキルを持つ方に一時的な業務をお願いする機会が出てきます。

例えば、フリーランスのデザイナーに単発で制作を依頼したり、講座やイベントで外部講師に登壇をお願いしたりするケースなどが当てはまります。

スポットで依頼したい場面では、雇用ではなく業務委託契約を結ぶのが一般的です。

社会保険の手続きなどが不要な分、業務内容や納期、報酬の金額などはしっかりと契約書で取り決めておくことが大切になります。

後のトラブルを防ぐためにも、依頼内容を丁寧に言葉にしておくことがポイントです。

販促やSNS運用をプロに依頼したい

事業をスタートしたばかりの時期は、商品やサービスを知ってもらうために、SNSやホームページを活用した発信が大切になります。

ただ、マーケティングや広報の知識に自信がないと、「どこから手をつけていいかわからない」と感じることもあるかもしれません。

そんなときには、SNS運用に詳しいフリーランスの方や、広告運用の経験がある方に業務をお願いすることも選択肢のひとつです。

業務委託契約を結べば、必要な期間だけ外部の力を借りることができ、固定費の心配も少なくなります。

お願いする業務の内容や報酬などを契約書にきちんと書いておけば、お互いの安心にもつながります。

中長期的に人を雇うことに不安がある

起業したばかりの頃は、事業の見通しがまだ安定していないため、すぐに社員やパートを雇うことに迷いが出ることもあると思います。

「ずっと仕事を出せるかわからない」「雇った人がすぐ辞めてしまったらどうしよう」といった不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

そんなときに役立つのが、業務委託という形で外部の方にお仕事をお願いする方法です。

例えば「週に数時間だけ事務作業をお願いしたい」「月に1回、資料作成をサポートしてほしい」といった内容でも始められます。

契約書できちんと業務内容や報酬を決めておけば、長く付き合う場合でも安心してお任せしやすくなります。

トラブルを防ぐ!契約書に盛り込んでおきたい5つのポイント

業務委託契約書を交わすときは、「何となく」で進めてしまうと、後で思わぬトラブルにつながることがあります。

ここでは、特に気をつけておきたいポイントを5つご紹介します。

業務内容は出来るだけ具体的に書いておく

業務委託契約書には、どんな仕事をどの範囲までお願いするのかを、出来るだけ具体的に書いておくことが大切です。

例えば「SNS運用を依頼する」とだけ書いた場合、投稿作成・画像制作・コメント対応・レポート作成など、どこまでが対象か判断が分かれてしまうことがあります。

委託する側と受ける側で認識がズレてしまうと、後々「これは含まれていないと思っていた」といったトラブルに発展しやすくなります。

業務の範囲、納品の形式、使うツールなどを、予め丁寧に文章にしておくと安心です。

報酬は「金額」「支払い方法・タイミング」まで明記する

報酬については、「いくら支払うのか」だけでなく、「いつ、どうやって支払うのか」まできちんと書いておくことが大切です。

例えば、報酬が振り込みの場合は振込予定日や手数料の負担先、成果報酬であれば成果の基準なども明確にしておくと安心です。

業務委託契約の中には、法律上「報酬無し」が原則とされるものもあるため、報酬が発生する契約であることをきちんと明示しておく必要があります。

金銭に関することは、ちょっとした誤解でも関係性に影響することがあるため、「後から話し合えばいい」という感覚ではなく、最初からできるだけ細かく取り決めておくのが安心です。

契約期間や途中解約の条件も明文化しておくと安心

いつからいつまでの契約なのか、途中で終了する場合はどうするのかといったことも、事前に取り決めておくと安心です。

業務委託契約では、スタート日と終了日をはっきり決めるほか、期間の目安だけでも書いておくことで、スケジュールが立てやすくなります。

また、「〇日前までに通知すれば契約を終了できる」といった解約条件を記載しておくと、万が一のときにもスムーズに対応できます。

急なキャンセルや、支払いをめぐるトラブルを防ぐためにも、契約の終了方法について明文化しておくことは非常に大切です。

秘密保持を盛り込めば、SNS・口コミトラブルも予防できる

業務の中で知ることになる取引先の情報や、業務の進め方に関する内容などは、外部に出ると大きなトラブルにつながることがあります。

特に、最近ではSNSや口コミサイトでの発信がきっかけで、予期せぬ形で情報が広まることも少なくありません。

業務委託契約書には、リスクを避けるために「秘密保持に関する取り決め」を入れておくことが一般的です。

具体的には、知った情報を第三者に漏らさないことや、契約が終わったあとも秘密を守る義務が続くことなどを記しておきましょう。

ロゴや資料の著作権や成果物の扱いを明確にする

デザイン、資料、文章、画像など、業務委託によって作ってもらった成果物には著作権が発生することがあります。

報酬を支払ったからといって、自動的に全ての権利が委託者に移るわけではありません。

そのため、成果物の権利が誰に帰属するのかを契約書でしっかりと決めておくことが必要です。

また、「納品されたロゴを自由に使えると思っていたのに、使い方に制限があった」というような行き違いを防ぐには、著作権の所在や使用条件を明記することが非常に重要です。

二次利用の可否や商用利用の範囲なども合わせて記載しておくと、納品後も安心して使い続けることができます。

いますぐ使える!業務委託契約書のテンプレート

外部のデザイナーや講師、事務サポートなどにお仕事をお願いする際、きちんと書面で取り決めておくことで、後々のトラブルを防ぐことにつながります。

とはいえ、契約書を一から作るのは、少しハードルが高く感じる方も多いかもしれません。

そこで、起業して間もない方にも使いやすいよう、基本的な項目をおさえた業務委託契約書の雛形をご用意しました。

まずは下記のテンプレートをベースに、自社の状況に合わせて整えてみてください。

業務委託契約書 業務委託契約書 雛形業務委託契約書 雛形

スタートアップ期の経営者が契約で失敗しないために

スタートアップ期の女性経営者が契約で失敗しないために

起業したばかりの時期は、契約書の準備にまで手が回らず、感覚的なやり取りで進めてしまうこともあります。

ここでは、実際に起きやすい失敗例をご紹介します。

口約束だけで進めてしまい、報酬トラブルに発展

立ち上げたばかりのオンラインショップで、SNS運用をフリーランスの方にお願いすることになった経営者の方がいました。

「お互い信頼しているし、書類を交わすほどではないですよね」といった流れで、契約書は用意せずにチャットでやり取りをして業務がスタート。

ところが1ヶ月ほど経った頃、投稿数や作業範囲についての認識に食い違いが生じ、「最初に聞いていたより作業量が多い」と相手側から追加の報酬を求められました。

経営者の方は「これ以上は払えない」と説明したものの話はまとまらず、途中でやり取りがストップ。

既に支払い済みの費用も戻らず、SNSの更新も滞る結果に。口約束だけで進めたことで、時間もお金も無駄になってしまったケースです。

“とりあえずの一枚”が、想定外の制約を生んでしまった

とある経営者が、Webサイトのリニューアルを外部に依頼した際、ネットで見つけた無料の契約書テンプレートを使って契約を結びました。

忙しさもあって、内容はしっかり確認せず、そのまま署名してしまったそうです。

納品まではスムーズでしたが、数か月後、新しいサービス用のLPを制作する際に、以前納品されたバナー画像を使おうとしたところ、「そのデザインは再利用できません」と相手方から制止されてしまいました。

確認すると、契約書には“成果物の再利用は不可”とする著作権の条項が盛り込まれており、泣く泣く追加費用を払って新たに作り直すことに。

テンプレートの内容を自分のビジネスに照らし合わせて確認していなかったことが、結果的に想定外の出費につながってしまったそうです。

相談しやすい専門家とつながっておくと、不安もグッと減る

契約書について不安や疑問を感じたとき、気軽に相談できる弁護士がいると、起業初期の心細い状況でも安心です。

法人を立ち上げたばかりの時期は、「こんなことまで聞いていいのかな…」とためらってしまう場面もあるかもしれません。

そういった小さな不安のうちに弁護士に相談できる環境があれば、大きなトラブルになる前に対処しやすくなります。

業務委託契約書についても、「雛形で問題ないか見てほしい」「自社に合う内容へ調整してほしい」といったご相談に、迅速かつ正確に対応してくれます。

最近では、オンラインでのやりとりや、キッズスペース付きの事務所など、女性経営者が相談しやすい工夫をしている法律事務所も増えています。

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まとめ

起業したばかりの時期には、業務委託契約書の重要性を頭では理解していても、「何を書けばいいのか分からない」「テンプレートをどう使い分けたらいいのか分からない」と感じることもあるかもしれません。

業務委託は、スポットでの依頼や初期コストの抑制に役立つ一方で、条件のすり合わせが曖昧なままだと、後にトラブルへ発展するリスクもあります。

だからこそ、契約書の内容を一つずつ丁寧に確認し、自社の状況に合わせて整えることが大切です。

業務委託契約書の作成やリーガルチェックについて不安がある場合には、専門家に相談することをおすすめします。

弁護士法人広尾有栖川法律事務所では、スタートアップ企業様や中小企業様の法務を幅広くサポートしており、契約書作成のご相談にも対応しています。

実務に根差した視点で、クライアント様の状況に合ったご提案を行っておりますので、お気軽にご相談ください。

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