うつ病で休職した社員への給与対応|会社としてできる配慮とは

五十嵐沙織弁護士
五十嵐沙織弁護士
(第一東京弁護士会)
この記事の監修者:
五十嵐 沙織(弁護士法人広尾有栖川法律事務所)
中央大学大学院法務研究科修了。freee株式会社にて企業内弁護士として東証マザーズ(現グロース)の上場を担当。現在弁護士法人広尾有栖川法律事務所を開業し、スタートアップ企業の伴走支援や、医療、人事労務に注力。弁護士のプロフィールはこちら

うつ病で社員が休職することになったとき、会社として「給与はどう対応すればよいのか」と悩むこともあるかもしれません。

働いていない期間の賃金の扱いには法律や就業規則、社会保険の制度などが関わっており、会社ごとにルールや対応の仕方も異なります。

社員が安心して療養に専念できるようにするには、制度の理解に加え、日々のコミュニケーションや職場の雰囲気づくりも大切です。

本記事では、うつ病による休職と給与の扱いについて、企業が押さえておきたいポイントを整理して解説します。

うつ病で休職中の「給与」、企業はどう対応すべき?

うつ病で休職中の「給与」、企業はどう対応すべき?

うつ病で社員が休職することになったとき、給与をどう扱えばよいか迷うこともあるかもしれません。

給与の支払いの有無やその内容は、就業規則や社会保険の仕組みなどをもとに、丁寧に確認していくことが大切です。

休職中の給料は支払うべき?

うつ病で社員が休職する場合、ほとんどの会社では休職中の給与は無給と定めています。

ノーワーク・ノーペイの原則(働いていない間は給料が発生しない)に基づく考え方で、法律上も支払い義務は無いとされています。

ただし、会社によっては「一定期間は給与の一部を支給する」といったルールを就業規則に設けているケースもあります。

休職中にどのくらいの給料が出るのか、あるいは全く出ないのかは、会社ごとに異なるため、まずは自社のルールをしっかり確認しておくことが大切です。

就業規則で定める支払い条件とは

休職中に給与が出るかどうかは、会社の就業規則や賃金規程によって決まります。

「私傷病による休職は無給」としている会社が多いですが、中には「勤続年数に応じて一定期間だけ支給する」といった独自のルールを設けている会社もあります。

また、歩合給や賞与などの扱いについても、それぞれルールが異なります。

法律で一律に決まっているわけではなく、会社が定めた就業規則の内容に基づいて対応されます。

休職することになったときは、事前に就業規則や賃金規程をしっかり確認し、支払い条件を把握しておくと安心です。

社会保険料や税金の扱いに注意

うつ病で休職していても、健康保険や年金などの社会保険料は原則として発生し続けます。

もし休職中も給料が支払われていれば、給与から保険料が天引きされますが、無給になる場合には、自分で支払う必要が出てきます。

会社が一時的に立て替えるケースもありますが、その後に社員がまとめて支払う仕組みになっていることが多いです。

支払い方法やタイミングについては会社によって異なるため、できるだけ早めに人事や労務の担当者に相談し、確認しておきましょう。

うつ病の社員が安心して休める職場にするために

うつ病で休職する社員が、不安なく療養に専念できるようにするに、制度面の整備だけでなく、声かけや対応の仕方にも配慮が求められます。

休職期間の決め方と延長の考え方

うつ病などで休職する場合、「どのくらい休めるのか?」という点は多くの方が気になるところです。

会社ごとにルールは異なりますが、多くの就業規則では「最長〇か月まで」といった形で休職期間が決められています。

勤続年数によって期間に差があるケースもあります。

また、状態によっては「もう少し休みたい」と希望されることもありますが、延長が認められるかどうかは、医師の診断や会社の判断をもとに個別に検討されます。

まずは自社のルールを確認したうえで、出来るだけ丁寧に説明してあげると安心につながります。

休職中のボーナスはどう扱う?

「休職中でもボーナスってもらえるのかな?」と疑問に思う方もいるかもしれません。

基本的にボーナスは「どれくらい働いたか」「業績にどう貢献したか」によって支給されることが多いため、休職中は対象外となるケースが多いです。

ただし、会社によっては「支給日の在籍が条件」「評価期間に〇日以上出勤していれば対象」など、独自のルールを設けていることもあります。

トラブルを防ぐためにも、支給対象になるかどうか、事前に確認して本人にわかりやすく伝えましょう。

まず有給を使ってもらうのがベスト?

長く休むことになりそうな場合でも、まずは「年次有給休暇」を使ってもらうことが一般的です。

有給休暇は、これまで働いてきた中で社員に与えられた大切な権利で、休んでいても給料は満額支払われます。

本人の収入面の不安を減らせるという意味でも、有給を使ってから休職に入る方がスムーズなことが多いです。

ただ、残っている有給日数、本人の希望、医師の判断なども考慮しながら対応していく必要があります。

無理に休職を勧めるではなく、本人の状況をふまえて一緒に考えていきましょう。

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給料が出ないときに使える公的な補償制度

うつ病などで休職し、給与の支給がなくなる場合には、生活を支えるための公的な補償制度を活用できることがあります。

まず、制度の仕組みや条件を知っておくことが重要です。

傷病手当金の仕組みと対象条件

うつ病などで長期的に働けなくなった場合、会社からの給与が支給されないケースでも、「傷病手当金」という公的制度を利用できる可能性があります。

健康保険に加入している方を対象とした所得補償制度です。

■ 支給対象となる主な条件

  • 病気やケガにより働けない状態にある
  • 連続する3日間を含め、4日以上仕事を休んでいる
  • 休業中に給与の支払いがない、または一部にとどまっている
  • 健康保険(協会けんぽや組合健保)に加入している

■ 制度の概要

項目内容
支給額1日あたりの標準報酬日額の約3分の2
支給期間最長1年6か月間
必要書類医師の意見書、事業主の証明書、本人の申請書など
申請先加入している健康保険組合(協会けんぽ等)

社員が適切に受給できるよう、会社側でも制度の概要や申請方法について早めに案内し、必要書類の作成など実務面のサポートを行うことが望まれます。

労災保険の仕組みと対象条件

うつ病が職場環境や業務上のストレスによって発症・悪化したと考えられる場合は、「労災保険(労働者災害補償保険)」の対象となる可能性があります。

精神疾患に関する労災の認定基準も年々整備されてきており、申請件数も増加傾向にあります。

■ 労災が認められやすい典型例

  • 長時間労働や過重な業務が継続していた
  • 上司・同僚によるハラスメント行為があった
  • 職場で突発的なトラブルや暴言などがあった

■ 認定された場合の主な補償内容

  • 治療費(療養補償給付)は全額補償
  • 休業4日目以降から「休業補償給付」が支給(給付基礎日額の約80%相当)
  • 障害補償給付、遺族補償給付なども状況に応じて支給される

■ 注意点

  • 労災認定には詳細な事実関係の調査が伴う
  • 診断書や業務状況の記録、第三者の証言などが重要な資料となる
  • 認定までに一定の期間を要することが多い

労災申請を検討する場合は、会社としても本人の申出を丁寧に受け止めつつ、事実確認を行いましょう。

必要に応じて、専門家(社労士や弁護士)と連携して慎重に対応していくことが求められます。

社員が手続きを進めやすくするために

傷病手当金や労災保険の申請には、医師の意見書や会社からの証明書など、いくつかの書類が必要となります。

特にうつ病などで心身の負担が大きい状況では、本人が一人で準備するのは容易ではありません。

企業として申請が円滑に進むよう、出来る範囲でサポートを行うことが望まれます。

休職が決まったとき、企業がやるべきこと

休職が決まったとき、企業がやるべきこと

社員の休職が決まったときは、制度の案内や手続きのサポートに加えて、連絡の取り方や職場への伝え方など、周囲の対応にも細やかな配慮が求められます。

医師からの診断書を受け取ったらどう対応するべき?

社員からうつ病などの診断書が提出された場合、まずは診断内容をしっかり確認することが大切です。

医師からの診断書には、休職が必要とされる期間や、就労が難しいとされる理由などが記載されています。診断内容に基づいて、就業規則に沿って休職手続きを進めていく流れになります。

休職制度の概要や今後の流れについて、社員の方にわかりやすく説明してあげることも忘れないようにしましょう。

また、必要に応じて産業医の意見を確認したり、本人の気持ちに寄り添ったうえで柔軟に対応していく姿勢も大切です。

休職者への連絡は、どこまで必要?

休職中の社員にどのくらい連絡を取るべきか、悩ましいところかもしれません。

基本的には「過度に連絡しすぎないこと」が大切ですが、全く連絡を取らないと、本人が職場とのつながりを感じにくくなってしまうこともあります。

無理のない範囲で、月に1回程度、様子を伺うような連絡を入れるのが目安です。

体調の確認や手続きの案内などにとどめ、仕事に関するプレッシャーを与えないように注意しましょう。

予め「どれくらいの頻度・方法で連絡を取るか」を本人と相談して決めておくと、より安心して休職期間を過ごしてもらえるはずです。

職場への情報共有は“必要最小限”が原則

社員が休職することになった場合、どのように職場へ伝えるかについても慎重に考える必要があります。

特にうつ病などメンタルヘルスに関わる内容は、センシティブな話題になりやすいため、共有する情報は「必要最小限」にとどめることが基本です。

例えば、「◯◯は、〇月〇日より、体調不良のため休職に入ります」といった形で十分です。

病名や詳細な経緯までは、本人の同意がない限り共有すべきではありません。

情報を必要とする関係者には、適切な範囲で伝えるようにし、プライバシーがしっかり守られていると感じられるような対応を心がけましょう。

うつ病による退職や解雇について

うつ病での休職が長引いたときには、退職や解雇といった選択肢を考える場面も出てきます。

社員の状況に寄り添いながら、丁寧に対応していきましょう。

うつ病を理由に解雇できるのはどんなケース?

うつ病などのメンタル不調が続いた場合でも、「うつ病だから」という理由だけで解雇することはできません。

労働契約法などの法令では、病気による休職が認められる間は、原則として解雇は無効とされます。

ただし、休職期間を過ぎても復職の見込みがなく、業務に支障が生じていると判断される場合には、「客観的に合理的で、社会通念上相当」と認められたときに限り、解雇が有効とされるケースもあります。

実際の対応では、まず就業規則で定めた休職制度をしっかり運用したうえで、医師の診断や産業医の意見を確認しながら、慎重に判断を進めるようにしましょう。

退職を勧める場合は、“慎重な対話”がカギ

社員が長期間の休職に入り、復職の見通しが立たない場合など、会社として「退職」という選択肢を伝える場面が生じることもあります。

しかし、退職の勧め方には注意が必要です。

一方的に退職を迫ったり、暗に圧力をかけるような形になってしまうと、「退職勧奨」ではなく「不当な退職強要」と見なされる恐れがあります。

まずは本人の気持ちを尊重しながら、体調や今後の希望を丁寧に聞き取ることが大切です。

また、退職を検討する場合は、一連の経緯を記録に残しておくことで、トラブル防止につながります。

まとめ

うつ病による休職に向き合うとき、給与や社会保険の対応、休職期間や制度の案内など、企業として確認・対応すべき点は思った以上に多くあります。

また、休職中の連絡の仕方や職場への情報共有など、周囲の関わり方にもさりげない配慮が必要です。

社員が安心して療養に専念できるよう、制度面だけでなく日々のやりとりにも温かさを忘れずに対応していきたいところです。

弁護士法人広尾有栖川法律事務所では、労務問題をはじめとした企業法務に力を入れており、休職や復職にまつわる実務対応から、トラブルを未然に防ぐための制度整備まで、丁寧にサポートしております。

従業員対応に不安を感じた際は、お気軽にご相談ください。

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