うつ病社員への対応方法:企業が取るべき具体的な対策とは

うつ病社員への対応
五十嵐沙織弁護士
五十嵐沙織弁護士
(第一東京弁護士会)
この記事の監修者:
五十嵐 沙織(広尾有栖川法律事務所)
中央大学大学院法務研究科修了。freee株式会社にて企業内弁護士として東証マザーズ(現グロース)の上場を担当。現在広尾有栖川法律事務所を開業し、スタートアップ企業の伴走支援や、医療、人事労務に注力。弁護士のプロフィールはこちら

うつ病などの精神疾患を抱える社員への対応は、企業にとって重要な課題です。社員のメンタルヘルスは生産性に直結し、適切な対応が求められます。

まずはうつ病の兆候を見逃さないことが肝心です。仕事上のパフォーマンス低下や身体的な症状の変化、社内での孤立傾向、遅刻や欠勤の増加などを早期に発見し、適切に対応することで、社員の健康と企業の健全な運営を維持することができます。

うつ病を抱える社員の兆候とは

うつ病の兆候として、仕事上のパフォーマンス低下、身体的な症状の変化、社内での孤立傾向、遅刻や欠勤の増加などが見られます。上記の兆候を見逃さないことが、健全な早期対応につながります。

仕事上のパフォーマンス低下

うつ病の兆候の一つに、仕事上のパフォーマンス低下が挙げられます。

以前はミスが少なかった社員が、書類の誤字脱字や計算ミス、期日の間違いなどを頻繁に起こすようになります。集中力や注意力の低下が原因です。

身体的な症状の変化

身体的な症状の変化も、うつ病の兆候です。不眠や過眠、食欲の変化、体重の増減などが見られます。特に、朝起きた時に体が重いと感じることが続く場合は要注意です。

上記の症状が一定期間にわたって続く場合、専門医の受診を勧めることを検討しましょう。

社内での孤立傾向

社内での孤立も、うつ病の兆候として現れることがあります。以前は同僚と積極的に交流していた社員が、突然会話を避けるようになり、会議で発言しなくなることがあります。

飲み会やランチにも参加しなくなるなど、孤立傾向が強まった場合はうつ病の兆候かもしれません。

遅刻や欠勤の増加

うつ病の兆候として、遅刻や欠勤の増加も見られます。

特に、事前の連絡無しに欠勤や遅刻が増えた場合は要注意です。精神的なストレスや身体的な不調から職場に行くことが困難になっている可能性があります。

うつ病など精神疾患を抱えた社員がいる場合に会社が取るべき行動とは

精神疾患を抱えた社員への対応は、企業の重要な責務です。

社員の健康状態を把握し、適切なサポートを提供することが求められます。企業は早期発見と対応を心がけ、社員の健康を守るための体制を整える必要があります。

医師の診察を勧める

うつ病が疑われる社員には、医師の診察を勧めます。

産業医を選任している場合には、まずは産業医面談を受けることを勧めるのが良いでしょう。

気分の落ち込みや仕事の効率低下などの症状がある場合、身体的な不調を理由に医療機関への受診を促します。受診を強制しないようにすることが重要です。

医師の診断書に基づく対応

社員から就労困難(休職相当)と記載されている医師の診断書が提出された場合は、迅速に休職命令の手続きを進めます。

診断書に基づき、適切な期間の休職を命じ、無理なく休職に入れるよう配慮します。就業規則の定めに従い、必要に応じて産業医の意見も踏まえて決定する必要があります。

休職制度の説明

休職に入る前に、労務担当者が社員と面談を実施します。休職制度について社員に詳しく説明し、休職期間やその間の給与についても明確に伝えます。傷病手当や公的な支援制度についても案内し、社員が安心して休職できるようにします。

具体的な休職の流れを示し、手続きの不安を軽減することが望ましいです。

労働環境の改善

社員がうつ病を発症した原因が労働環境にあるかどうかを確認します。

過剰な労働時間やハラスメントの有無、過度なノルマなどを点検し、不適切な状況があれば速やかに是正します。労働環境の見直しにより、再発を防止する体制を整えることが重要です。

継続的なサポート

休職中および復職後も、社員に対して継続的なサポートを行います。

復職計画を立て、業務量や勤務時間を調整し、定期的な面談を通じて社員の精神的な安定を支援します。社員の健康管理に努め、安心して働ける環境を整えてください。

うつ病など精神疾患を抱えた社員がいる場合に会社が避けるべき行動とは

うつ病の社員がいる場合、会社が避けるべき行動はいくつかあります。まず、医師から休業が必要と診断されているにもかかわらず、無理に働かせることは避けましょう。

社員のうつ病が悪化し、会社の安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性があります。さらに過重労働が原因であれば、労働基準監督署からの指導や是正勧告、刑事告発のリスクも伴います。

次に、うつ病による作業効率の低下や遅刻、欠勤を理由に解雇や退職勧奨を行うことも避けるべきです。法的紛争や企業イメージの低下を招く恐れがあります。

社員がうつ病になるのを未然に防ぐための取り組み

企業は社員がうつ病になる前に防ぐための取り組みを積極的に行うことが重要です。

職場環境の改善や社員のメンタルヘルスケアを重視し、早期対応を心がけることで、社員の健康を守ることが求められます。社員のメンタルヘルスを守るための予防策を講じることで、企業全体の生産性向上にも繋がります。

定期的なストレスチェックの実施

企業内で定期的にストレスチェックを実施し、社員のメンタル状態を把握することが重要です。ストレスチェックは、社員が抱えるストレスのレベルを測定し、メンタル不調の兆候を早期に発見するためのツールです。

実施後は結果に基づいて、必要な対策を講じることが求められます。例えば、ストレスの高い社員には、カウンセリングや休養の機会を提供し、早期に対応することが大切です。

健康的な職場環境の整備

社員が健康的に働ける環境を整えることも、うつ病を未然に防ぐための効果的な方法です。

職場環境の改善には、適切な業務負荷の調整や職場の人間関係の見直しが含まれます。

また、リラックスできるスペースを設けたり、社員が気軽に相談できる窓口を設置することで、メンタルヘルスの不調を防ぐ環境作りが可能となります。定期的なアンケート調査を通じて、社員の意見を反映させることも効果的です。

社員の健康意識を高める教育と研修

社員の健康意識を高めるための教育や研修を定期的に実施することが求められます。健康経営の一環として、食事や睡眠、運動の重要性を理解させるプログラムを導入する企業も増えています。

具体的には、栄養バランスの取れた食事の提供や、定期的な運動イベントの開催、質の良い睡眠を促すためのノー残業デーの導入などが挙げられます。これにより、社員の生活習慣が改善され、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐことが期待できます。

うつ病を理由に社員を解雇することは可能か

うつ病を理由に社員を解雇することは、基本的には難しいと考えた方が良いでしょう。解雇は労働者にとって非常に大きな不利益をもたらすため、法律によって厳しく規制されています。

まず、業務上の理由によりうつ病を発症した場合には、休業期間及びその後30日間の解雇が禁止されています(労働基準法19条)。

業務上の理由によらない場合であっても、労働契約法16条では、解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には無効とされています。そのため、社員がうつ病を患っている場合でも、それを理由に解雇するには、非常に高いハードルが存在します。

もっとも、就業規則に「身体または精神の障害により、労務提供が困難であると認められたとき」を解雇事由として定めておけば、解雇をすることも可能です。

その場合でも、社員の病状が業務に支障をきたす程度であることを客観的に示す必要があります。例えば、社員が長期にわたり出社できず、業務遂行が困難な状態が続いている場合には、一定の条件を満たせば解雇が認められる可能性もあります。

また、休職制度は、解雇猶予のための制度であるため、休職期間中の解雇は難しいと考えられます。

他方、休職期間満了後の解雇については、就業規則に「休職期間満了後に復職できない場合は解雇する」旨を定めておけば、解雇が認められる可能性があります。

しかし、その際も適切な手続きを踏むことが求められ、不当解雇とみなされないようにするための十分な注意が必要です。

したがって、うつ病を理由に社員を解雇することを検討する場合は、弁護士などの専門家の助言を受けながら慎重に進めることが大切です。また、解雇をする場合には就業規則の定めに従う必要があるため、専門家に相談のうえ、就業規則の定めを見直しておくことも必要です。

退職勧奨で社員を解雇することは可能か

退職勧奨とは、会社が特定の社員に対して退職を促す行為です。具体的には「会社を辞めたほうが良いのではないか」と勧め、自発的に退職を決意するよう説得する活動です。会社側は任意の退職を促すだけで、基本的には自由に行うことができますが、その際には慎重な対応が求められます。

会社からの一方的な解雇と異なり、退職勧奨は社員が自由意思に基づいて退職を決定することが前提です。従って、会社が退職を勧める際には、社員に対して不当な心理的圧力をかけたり、名誉感情を傷つけるような言動を取ることは違法行為となります。このような不当な退職勧奨は法的に問題となり、不法行為と見なされることがあります(東京地裁平成23年12月28日判決)。

さらに、執拗に退職を迫る行為が原因で精神的苦痛を被り、慰謝料請求が認められた例も存在します(京都地裁平成26年2月27日判決)。特にうつ病を発症している社員に対しては、退職勧奨によって症状が悪化したと主張されるリスクがあります。

そのため、退職勧奨は慎重に行い、社員の自由な意思決定を妨げないよう配慮が必要です。

うつ病を抱える社員の問題解決には弁護士への相談をおすすめします

企業は、うつ病などのメンタルヘルス不調を抱える社員に対して、適切な対応が求められます。企業は社員の生命や健康を守る義務がありますが、メンタルヘルスの問題は判断が難しく、再発のリスクも高いため、対応に悩むことが多いです。うつ病の社員に対する対応を誤ると、社員から損害賠償請求を受けたり、企業の評価が下がるリスクがあります。

そのため、まずは専門医による診断を受けてもらうことが重要です。診断結果に基づいて、業務の軽減や配置転換、休職などの対応を検討します。また、休職中の社員との連絡を怠らず、定期的に状況を確認しましょう。

上記の対応を適切に行うためには、労務問題に詳しい弁護士のサポートを受けることをおすすめします。弁護士は、法律的な観点から企業がどのように対応すべきかをアドバイスし、トラブルを未然に防ぐ手助けをします。

企業は、弁護士の助言を受けながらうつ病を抱える社員に対して適切な対応を行い、企業としてのリスクを最小限に抑える動きが求められます。

まとめ|広尾有栖川法律事務所について

社員がうつ病などの精神疾患を抱えた場合、企業は早期発見と適切な対応が求められます。兆候を見逃さず、医師の診察を勧め、診断書に基づいた休職や労働環境の改善を行うことが重要です。

広尾有栖川法律事務所では、企業の労務問題に関する豊富な経験と専門知識を持つ弁護士が、的確なアドバイスとサポートを行います。企業の事業や社内事情を的確に把握し、問題解決のための最善の方法を提案します。

企業と社員の双方が健全に業務を続けられるよう、クライアント様とともに伴走し、信頼されるパートナーとして企業価値の向上に貢献します。ぜひお気軽にご相談ください。

「職場でのカウンセリング」心理職のための手引き
『職場でのカウンセリング』
心理職のための手引き

なお、広尾有栖川法律事務所の代表弁護士が執筆した『職場でのカウンセリング』という書籍の第6章で「知っておくべき法律知識と他職種との連携」について解説しております。

「休職・復職をめぐる労働紛争」という項目で、メンタル不調を訴える社員への対応や産業医との連携などについて詳しく記載しておりますので、ご興味があれば是非ご一読ください。

お問い合わせ
ご相談・ご質問、お気軽にお問い合わせください。
お電話でのお問い合わせ
03-4500-1896
03-4500-1896
受付時間:9:00〜18:00(平日)
メールでのお問い合わせ
お問い合わせフォーム