矯正治療の返金対応、途中でやめる場合はどうなる?よくあるトラブルと対処法を紹介

五十嵐沙織弁護士
五十嵐沙織弁護士
(第一東京弁護士会)
この記事の監修者:
五十嵐 沙織(弁護士法人広尾有栖川法律事務所)
中央大学大学院法務研究科修了。freee株式会社にて企業内弁護士として東証マザーズ(現グロース)の上場を担当。現在弁護士法人広尾有栖川法律事務所を開業し、スタートアップ企業の伴走支援や、医療、人事労務に注力。弁護士のプロフィールはこちら

歯科矯正の治療は長期間にわたることが多く、生活環境の変化や体調面の理由などから、途中でやめたいと感じる患者さんも少なくありません。

「返金はできないと言われて困った」「説明と違っていた」といった声も、実際に耳にします。

返金対応は医院ごとに方針が異なるうえ、契約書の内容や説明の仕方によって、受け取られ方に差が出やすいテーマです。

患者さんとの信頼関係を大切にするためにも、トラブルを防ぐ工夫が求められています。

本記事では、歯科矯正を途中でやめる場合の返金トラブルについて、基本的な考え方や医院側が出来る対応を分かりやすく解説していきます。

最近よく聞く「矯正中の返金トラブル」とは?

最近よく聞く「矯正中の返金トラブル」とは?

最近、歯科矯正の治療を途中でやめたいと考える患者さんから、返金に関するトラブルの相談が少しずつ増えてきています。

実際に、現場でも対応に迷うケースがあるようです。

「返金不可」に対して戸惑う患者が続出

最近、歯科矯正の治療を途中でやめようとした患者さんから「返金はできません」と言われ、困惑するケースが増えています。

中には、ほとんど治療が進んでいない段階でも全額が戻らないと説明され、不信感を抱いたという声もあります。

本来、矯正治療は「準委任契約」にあたるため、まだ行っていない治療分については返金が原則です。

また、日本臨床矯正歯科医会では、治療の進み具合に応じた返金の目安(例:犬歯の移動までで40〜60%)も公表しています。

たとえ契約書に「返金なし」と書かれていても、それが患者さんにとって一方的に不利であれば、無効になる可能性もあります。

医院ごとの対応の差がトラブルを招いている

歯科矯正を途中でやめたときの返金対応は、医院によってやり方や説明が大きく違うのが現状です。

とある医院では細かく説明して契約書に明記しているのに対し、別の医院では「返金や中やのことは、ほとんど聞いていなかった」という患者さんもいます。

医院ごと対応の差が、後のトラブルのもとになることも少なくありません。

日本臨床矯正歯科医会は、やむを得ず治療を中断する場合には、進行度に応じて治療費を精算し、きちんと説明するよう指針を出しています。

患者さんとの認識のズレを防ぐには、最初の説明と契約内容を明確にすることが、非常に大切です。

知っておきたい、返金に関する基本ルール

矯正治療の返金に関するトラブルを防ぐには、どのようなルールがあるのかを事前に知っておくことが大切です。

特に治療の進行度に応じてどの程度の返金が相当かについて、理解を深めておきましょう。

矯正歯科学会が示す返金の目安とは

矯正治療を途中でやめることになった場合、「どれくらい治療費が戻ってくるのか」は患者さんにとって大きな関心事です。

実際には、どの段階まで治療が進んでいるかによって返金額の目安が変わってきます。

日本臨床矯正歯科医会では、永久歯列期にマルチブラケット装置を使って行う治療について、ステップごとの返金割合を参考例として示しています。

※既に治療費を全額支払っているケースを前提としています

治療のステップ返金の目安
全歯の整列60~70%程度
犬歯の移動40~60%程度
前歯の空隙閉鎖30~40%程度
仕上げ(最終調整)20~30%程度
保定(後戻り防や装置)0~5%程度

目安が示されていることで、治療の中断が必要になったときにも、患者さんと冷静に話し合いやすくなります。

「どこまで治療が進んでいるか」「既に使用した装置や検査費用の扱いはどうなるか」なども含めて、事前に説明しておくと安心です。

契約書の内容が判断のカギになる

歯科矯正の返金トラブルは、多くの場合、治療前に交わす契約書の内容が大きく関係しています。

特に注意したいのは、治療を途中で中やする場合の費用の精算や、引っ越しなどによる転院の対応について、事前にしっかりと書かれているかどうかです。

契約書に「途中でやめても返金なし」と書かれていても、消費者契約法の観点から、患者さんに一方的に不利な内容であれば無効とされるケースもあります。

また、歯科矯正の契約は法的には「準委任契約」であり、書面の締結が無い場合には、民法のルールに従う必要があるため、口頭での説明も重要になります。

トラブルを防ぐためには、契約書を渡すだけで終わらせず、内容を丁寧に説明し、患者さんの理解をしっかり得るようにしましょう。

実際に起きている、返金トラブルのパターン

矯正治療に関する返金トラブルは、実際の現場でも発生しています。

特にキャンセル料や中途解約の対応について、患者さんとの認識のズレが原因になることが多いようです。

キャンセル料が高額すぎて揉めてしまう

歯科矯正の治療を始める直前にキャンセルを申し出た患者さんが、高額なキャンセル料を請求されてしまうケースがあります。

例えば、マウスピース型矯正装置(アライナー)を予定していた方が、治療前に30万円のキャンセル料を求められたという相談も報告されています。

装置の製作にかかる費用が先に発生しているためという理由が多いのですが、十分な説明が無いまま契約が進んでいた場合、患者さんの不安や不信感につながってしまいます。

日本臨床矯正歯科医会によると、治療契約に関するトラブルは「矯正歯科何でも相談」に寄せられる全体の34%を占めているとのことで、契約時の丁寧な説明の大切さがわかります。

中途解約のルールが曖昧なまま治療開始

治療を途中でやめたいと申し出た際、返金のルールが明確でないと、患者さんとの間でトラブルになりがちです。

契約書に中や時の精算方法が書かれていなかったり、説明があいまいだったりすると、「聞いていない」「説明がなかった」といった行き違いが起きやすくなります。

返金に関する考え方を事前に共有しておくことで、患者さんも安心して治療を進めやすくなります。

患者とのすれ違いが口コミに影響することも

治療を中断した患者さんが「返金されなかった」と感じると、不満がSNSや口コミサイトに書かれてしまうことがあります。

たとえ契約内容に沿った対応であっても、説明が足りなかったり、言葉の選び方がそっけなく感じられたりすると、心証が悪くなってしまいます。

患者さんとのやり取りが悪い印象として残ってしまうと、医院の評判にも影響が出る可能性があります。

普段から分かりやすく丁寧な説明を心がけ、対応の経緯を逐一記録しましょう。

返金トラブルを防ぐために歯科医院で取り組めること

歯科矯正を途中でやめたいという相談があったとき、返金対応を巡って揉めてしまうケースは少なくありません。

スムーズな対応を行うためにも、日頃から院内で準備しておきましょう。

契約書に中断時の清算ルールを明記する

歯科矯正は数ヶ月から数年にわたる長い治療になることが多く、患者さんの都合で途中終了を希望されるケースもあります。

返金の取り扱いが明確でない場合、思わぬトラブルにつながってしまいます。

事前に「治療を途中でやめる場合の返金方法」について契約書に明記しておくことが大切です。

例えば、治療の進行度合いに応じて返金額の目安を設定しておくと、後々のすれ違いを防ぎやすくなります。

「後から説明された」「そんな話は聞いていない」といった行き違いが起きないようにするためにも、契約書の内容は具体的に、分かりやすく整理しておくと安心です。

説明と同意のプロセスを丁寧に行う

治療を始める前に、内容や方針、費用、リスクなどについて丁寧に説明し、患者さんにしっかり納得してもらうことが、トラブルの予防につながります。

特に「返金の取り扱い」や「中断時の対応」については、焦らず時間をとって丁寧に説明しましょう。

難しい言葉はなるべく避けて、紙に書いたり、図を使ったりするのも効果的です。また、その場で契約せず、一度持ち帰って考えてもらう提案も、安心感につながります。

患者さんが「ちゃんと説明してくれた」と思えるかどうかが、信頼関係のベースになります。

スタッフ間で方針を統一しておく

返金や中断時の対応については、医院内で事前に方針を統一しておくこともとても大切です。

例えば、患者さんが受付や衛生士に相談したときに、担当医の説明と異なる内容を伝えてしまうと、不信感を招く原因になります。

契約の内容や返金の基準、伝え方のポイントなどは、スタッフ全員で共有しておくようにしましょう。

また、患者さんとのやりとりはメモなどで記録しておくと、「聞いた・聞いてない」といったトラブルを防ぐのにも役立ちます。

困ったときは、弁護士のサポートも選択肢に

困ったときは、弁護士のサポートも選択肢に

矯正治療の返金対応で悩んだときには、法律の専門家に相談するという選択肢もあります。

対応方法に迷いが生じてしまうと、状況がこじれてしまうこともあるため、早めの対処を心がけましょう。

契約内容や返金対応のトラブルを未然に防げる

矯正治療は長期間にわたるため、途中で治療をやめたいという相談が入ることも少なくありません。

返金のルールがはっきりしていないと、説明の行き違いや誤解からトラブルになってしまうことがあります。

事前に弁護士に相談しておくことで、契約書の内容を整備したり、説明の仕方を工夫したりすることができます。

患者さんとのすれ違いを減らせるだけでなく、「きちんと対応してもらえた」と感じてもらえるような安心感にもつながります。

結果として、クレームや悪い口コミを防ぐことにもつながり、医院の信頼を守ることが可能です。

患者対応に悩んだら、早めに相談を

矯正治療を中断したいと申し出があったとき、「どこまで返金するのが適切なのか」「どう伝えれば納得してもらえるのか」と迷ってしまうこともあるかと思います。

そんなときは、出来るだけ早めに弁護士に相談するのがおすすめです。

対応を先延ばしにしてしまうと、説明不足だと思われたり、対応が冷たいと受け取られたりして、トラブルが大きくなることもあります。

弁護士からアドバイスを受けることで、自信を持って説明できるようになり、患者さんとのやりとりもスムーズになります。

万が一の備えにもなるため、普段から些細な悩みを相談できる環境を整えておくと安心です。

まとめ

矯正治療を途中でやめることになった場合、返金に関する行き違いが生じやすいのが現実です。

契約時の説明が不十分だったり、対応が医院ごとに異なっていると、患者さんにとっては不安や不信感につながってしまいます。

だからこそ、最初の説明を丁寧に行い、契約内容をできるだけ分かりやすく整理しておくことが大切です。

万が一トラブルになったときに備えて、法律の専門家に相談できる体制を整えておくと、より安心して対応できるようになります。

弁護士法人広尾有栖川法律事務所では、歯科医院やクリニックでの契約書のチェックや患者さん対応に関するご相談、返金に関するトラブル対応など、医療法務に詳しい弁護士が親身になってサポートを行っています。

治療を支える安心のパートナーとして、気軽に相談できる存在をお探しの方は、ぜひご相談ください。

参考:vol.35 矯正歯科治療トラブルの大きな原因 ―矯正歯科治療契約―|「日本臨床矯正歯科医会」

参考:
お問い合わせ
ご相談・ご質問、お気軽にお問い合わせください。
お電話でのお問い合わせ
03-4500-1896
03-4500-1896
受付時間:9:00〜17:00(平日)
メールでのお問い合わせ
お問い合わせフォーム