(第一東京弁護士会)
五十嵐 沙織(広尾有栖川法律事務所)
医療ミスが発生した場合、被害者は適切な賠償金や示談金を請求することが重要です。
弁護士のサポートを受けることで、法的な手続きをスムーズに進め、正当な賠償金を受け取るための助けになります。本記事では損害の損害や医療ミスにおける損害賠償請求のプロセスについて詳しく見ていきましょう。
目次
医療ミスの賠償金と示談金について
医療ミスが発生した際、被害を受けた患者は医療機関に対して賠償金や示談金を請求することができます。
賠償金は法的な手続きに基づいて支払われる金銭であり、示談金は裁判を避けるために双方が話し合いで合意した金額です。
それぞれの違いや、具体的な内容について詳しく見ていきましょう。
医療ミス(医療過誤)とは
医療ミスとは、医師や看護師などの医療従事者の過失によって、患者の状態が悪化したり、後遺症が残ったり、最悪の場合には患者が死亡することを指します。医療過誤とも呼ばれることもあります。
具体例としては、手術前に医師が十分な説明をせず、手術後に後遺症が残ったケースが挙げられます。また、緊急処置が遅れたために患者が亡くなった、手術中に誤って健康な部位を切除してしまい、その後に深刻な後遺症が残った事例もあります。
賠償金と示談金の違い
賠償金は、医療ミスが原因で患者が被った損害を補填するために、医療機関が支払う金銭です。例えば、手術中のミスで症状が悪化した場合、医療機関がその損害を賠償するために支払うお金が賠償金です。
一方で示談金は、患者と医療機関が話し合いで和解する際に支払われる金銭を指します。示談金は裁判を避けるために支払われることが多く、裁判外で双方が合意した金額です。
例えば、医療ミスで後遺症が残った場合に、医療機関と患者が示談交渉で合意し、支払われるお金が示談金です。
医療ミスによる賠償金に含まれる損害の種類
医療ミスが原因で発生する損害には、治療費、通院交通費、慰謝料、逸失利益、休養損害など、さまざまな種類があります。
被害者が適正な賠償金を受け取るためには、具体的なケースに応じて、それぞれの損害について具体的に金額を算出する必要があります。それぞれの損害について詳しく見ていきましょう。
治療費
病気の悪化による治療費や手術費用が含まれます。また、将来治療費も将来その治療費を支出する必要性・相当性のほか、支出の蓋然性が認められれば、請求することができます。
通院交通費
通院のための交通費として、例えば、バスや電車の乗車料金、自家用車のガソリン代などが含まれます。
慰謝料(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料)
医療ミスによって受けた精神的な苦痛は、慰謝料として請求できます。入通院慰謝料は、医療ミスの結果として入院や通院が必要になった場合に支払われるもので、入院や通院の期間によって金額が決まります。数週間の入院であれば数十万円から、長期の入院ではさらに高額になります。
後遺障害慰謝料は、医療ミスにより後遺症が残った場合に支払われるもので、後遺障害等級に基づいて金額が決まります。最も重い1級の後遺障害では、2,800万円程度が相場です。
死亡慰謝料は、医療ミスで患者が死亡した場合に遺族に支払われるもので、被害者の家庭内での役割によって金額が異なります。一家の支柱の場合は2,800万円、母親や配偶者の場合は2,500万円が目安となります。
逸失利益(後遺障害逸失利益・死亡逸失利益)
逸失利益は、医療ミスによって将来得られるはずだった収入が減少することに対する補償です。後遺障害逸失利益は、後遺症が残ったことで働く能力が減少し、収入が減ることを指します。
例えば、医療ミスにより手足の機能が低下し、仕事ができなくなった場合、その人が将来得られたはずの収入が逸失利益として計算されます。死亡逸失利益は、医療ミスにより亡くなった人が将来得られたはずの収入を指します。被扶養者がいた場合、その生活費の一部も含まれます。
休業損害
医療ミスによって仕事を休む必要が生じた場合、休業損害として賠償請求ができます。例えば、会社員なら事故前3か月の給与、自営業者なら前年の申告所得を基準に計算します。
具体的には、事故前3か月分の給与を出勤日数で割り、その1日あたりの収入に休業日数を掛け合わせます。他の病気で収入がなかった場合は認められないこともありますが、治療期間が延びた場合は証明すれば請求可能です。
医療ミスの損害賠償を請求する前に確認すべきこと
医療ミスの原因調査と証拠収集
医療ミスが発生した場合、賠償金を請求するためには、まずその原因を明確にすることが重要です。具体的には、診療記録やカルテ、検査結果などの医療記録を徹底的に調査します。上記の記録は、病院が保管しているため、開示を求めることが必要です。
ただし患者が直接病院に開示を求めると、記録が改ざんされるリスクがあるため、弁護士を通じて証拠保全手続きを行うことが推奨されます。証拠保全手続きとは、裁判所を通じて証拠を確保する方法であり、改ざんのリスクを減らすことができます。
医療ミスによる損害額の算定
医療ミスによる損害額を正確に算出することは重要です。損害額は大きく分けて、治療費、通院交通費、慰謝料、逸失利益、休業損害から構成されます。
治療費は、手術費用や薬代などのほか、将来治療費も請求できる場合があります。通院交通費は、バスや電車の乗車料金、自家用車のガソリン代などが含まれます。休業損害は、事故により働けなかった期間の収入減を補填するものです。慰謝料は、精神的苦痛に対する補償で、入院期間や後遺症の程度によって異なります。逸失利益は、後遺障害や死亡により将来得られたはずの収入を計算します。
全てを正確に評価し、適正な賠償金を請求することが大切です。
損害賠償請求権の時効に注意
医療ミスが発生した場合、損害賠償を請求する権利には時効があります。時効にかかると、賠償金を請求する権利が消滅してしまいます。医療ミスの損害と加害者を知った時から5年、または医療ミスが発生してから20年で時効が成立します。
もしも手術のミスが後から判明した場合は、その損害を知った時から5年以内に請求しなければなりません。また病院のカルテや診療記録は重要な証拠ですが、通常5年間しか保管されません。早めに証拠を確保し、損害賠償を請求する手続きを開始しましょう。
医療ミスにおける損害賠償請求のプロセス
医療ミスが発生した場合、賠償金を請求するためには特定の手続きを踏む必要があります。
プロセスとして、弁護士への相談、示談交渉、そして必要に応じて訴訟が含まれます。それぞれのステップについて詳しく説明します。
弁護士への相談
医療ミスが発生した場合、まずは専門の弁護士に相談することが重要です。医療ミスの賠償金請求には法的な知識と経験が必要であり、法律の専門家の助けを借りることでより適切な対応が可能になります。
医療ミスにより大きな損害を受けた患者が自力で交渉を進めようとしても、病院側の提示する金額が適正かどうか判断するのは難しいのが実情です。また弁護士は証拠の収集や書類の準備、示談交渉のすべてをサポートします。
患者は自分の権利を守りながら、適正な賠償金を得るために確実に手続きを進められます。
示談交渉
医療ミスが発生した際、まず医療機関との示談交渉を行います。示談交渉では、医療ミスの証拠や診断書などを提示し、医療機関に賠償金の支払いを求めます。
弁護士に依頼することで、法律の専門知識を活用して適正な賠償金を引き出すことが可能です。弁護士は、代理人として窓口となって交渉を行うため、患者やその家族の心理的な負担を軽減します。
示談が成立しない場合、次のステップとして裁判を検討することになります。
訴訟
医療ミスに関する示談交渉がうまくいかない場合、最終的に訴訟を起こすことが選択肢となります。示談交渉を経ずに直接訴訟を提起することも可能です。
訴訟では、患者側が医師や病院の過失を証明する必要があります。具体的には、医師がどのような注意義務を負っていたか、実際にどのような医療行為が行われたか、そしてどの点で注意義務に違反していたかを明確に示す必要があります。
例えば、手術中のミスで損傷を受けた場合、その手術がどのように行われ、どの点で医師が標準的な注意義務を怠ったかを具体的に証明することが求められます。専門的で複雑な手続きが要求されるため、経験豊富な弁護士のサポートを受けることが望ましいです。
医療ミスにおける弁護士の役割
医療ミスが発生した場合、弁護士は損害賠償請求において非常に重要な役割を果たします。弁護士の助けを借りることで、患者は適正な賠償金を受け取るための法的な手続きをスムーズに進めることができます。
弁護士がどのようにサポートするかについて詳しく説明します。
弁護士ができること
弁護士は医療ミスに関する賠償金請求において非常に心強い存在です。
まず患者が正当な賠償金を受け取るために、法的根拠に基づいた適正な金額を見積もります。また病院側との交渉では、専門的な法律知識と経験を活かして、粘り強く交渉を進めます。示談交渉が難航した場合には、裁判まで一貫して対応できます。
また医療ミスでの損害額の算定や証拠の収集についてのアドバイスも弁護士が行い、患者やその家族が治療に専念できるよう全面的にサポートします。
弁護士費用
医療ミスが発生した際、弁護士に依頼する場合の費用は、いくつかの種類があります。
まず相談料は弁護士との面談の際にかかる費用で、1時間あたり1万円~が一般的です。次に着手金があり、これは案件を正式に受けた際に発生するもので、金額は請求額によって異なることが多いですが、一般に10万円から50万円程度です。
また病院との示談交渉や訴訟が成功した場合に支払う報酬金もあり、示談金の10%から20%程度が相場です。さらに裁判所への出廷などにかかる日当や、郵便切手代、カルテの開示費用などの諸経費も別途発生します。
弁護士費用は事務所や案件ごとに異なるため、事前に無料相談にて見積もりを取ることをおすすめします。
まとめ
医療ミスが発生した場合、賠償金や示談金の請求は複雑な手続きが伴います。適正な賠償を受けるためには、弁護士のサポートが不可欠です。
専門的な知識と経験を持つ弁護士が、証拠収集から交渉、訴訟まで一貫して対応し、患者やその家族の負担を軽減します。適正な賠償を受けるためにも、弁護士への早めの相談をおすすめします。